本当にあった怖い(?)話 ヤスデの亡霊

これは私が実際に体験した話なんですがね。季節は確か、晩春から初夏の頃でしたかねー。ある日の夜、足に妙な感覚があって、ふっと目を覚ました。なんて言うんですかね、すねの辺りをこう、何か小さな虫が這っているような、こそばゆーい感覚。

「うわぁ、なんだろうなー、ゴキブリだったらイヤだなー」

なんて考えながら、ゆーっくりと体を起こした。虫ってね、刺激しちゃあダメなんですよ。彼ら、下手に刺激するとパニック起こして、凄いスピードで走り回ったり、ものによっちゃあ噛まれたり刺されたりもする。私もまあ虫に慣れてる方とはいえ、身体中駆け回られたり、噛まれたりしたら、そりゃあいい気持ちしませんからね。だから、ゆーっくりと起きて、そーっと布団を捲って、寝間着の裾を恐る恐る捲ってみた。ところが、

「…あれ、変だな…」

…いないんですよ、何にも。ゴキブリどころか、ありんこ一匹いやしない。おかしいなー、確かに何か感触はあったんだけどなーって思って、探してみる。でも、見つからない。こうなるとこっちも段々熱が入ってきて、絶対見つけてやる、ってなるんですよ。折角気持ちよく寝てたところを、起こされたわけですからね。何より、そんな何がいるか分からないような状態じゃあ、安心して眠れやしない。せめて正体だけでも一目見てやろうってんで、立ち上がって、電気をつけて、掛布団を持ち上げた。すると、出てきた。敷布団の真ん中辺り、ちょうどさっきまで自分が座っていた辺りに、コロンと黒いものが。

「なーんだ、ヤスデか…」

胸をなでおろした。ヤスデっていうのはね、どこにでもいる小さな虫で、まあー立ち位置的にはダンゴムシみたいなもんですよ。大した害もない。そいつが丸まった状態で、出てきた。よく見ると、すでに事切れているようで動かない。あー、きっと私が動いたときに潰してしまったんだなー、悪いことしたなーって思って、部屋にあった植木鉢にでも埋めて、弔ってやることにした。ヤスデを指でつまむと、ポロッ。割れて真っ二つになった。

その瞬間、背筋が凍りついた。冷や汗が、ブワァーーーッて出た。

…そのヤスデの体、カラッカラに乾いていたんです。…これってどういうことかと言うと、生きている虫の体の中って、体液で満たされているんですよ。私たち人間で言うと、血液みたいなもんですね。だから、水っぽい。生々しい話ですけどね。もしもついさっきまで生きていたんなら、もっと水っぽいはずなんだ。なのに、カラッカラに乾いてる。つまりこのヤスデ…

…とっくの昔に、この世を去っていたんですよ…

弔ってほしかったんでしょうかねぇ。土に還ることもできない部屋の中で息絶えて、寂しくて、幽霊になって救いを求めたのかもしれませんねぇ。いやー、あるんですよね、こういうことって。

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