マダガスカルオオゴキブリを飼う

ゴキブリらしからぬ重厚感溢れる姿と動きで人気を博す、”昆虫界の無限牧場”ことマダガスカルオオゴキブリ。英名ヒッシングローチの名前通り、怒ると「シュー」という空気の擦れるような音を出して威嚇する。マダガスカルオオゴキブリというのは総称で、体色の明るいものや、より大きなものなど、様々な種が存在する。

我が家では、その中でも最大種とされる「オブロンゴナタ」と、単に「マダガスカルオオゴキブリ」として売られていた個体群を飼育している。どちらもとても丈夫で、ほとんど放置状態でも強かに殖え続けている。

マダゴキ最大種、オブロンゴナタ!

具体的な飼育環境は以下の通り。

  • 市販の特大プラケースを使い、蓋とケースの間に網戸の網を噛ませる。
  • 床材は無し。乾燥した糞が床材の代わりになる。
  • 足場、シェルターとして紙製の卵パックを3-4段ほど、裏表交互に重ねる。
  • 給水器として、プリンカップにティッシュを詰めて加水する。
  • 亀のエサなどの固形飼料を多めにばら撒く。常にエサが床に転がっている状態にする。
  • 霧吹きなどの加湿は一切しない。

日頃の世話といえば、週に1,2回程度の水換えと、エサの補充くらいのものだ。乾燥系の生き物なので、ダニやカビの心配もないのが嬉しいところ。そういえば、時折彼らの体表を赤いダニが走り回っていることがあるが、このダニはゴキブリたちのエサのおこぼれに与っているだけで、特に害はないようだ。

上記の環境を維持していると、そのうち勝手に繁殖しだすので、大型の爬虫類や熱帯魚などの活餌に最適だ。もしそういった捕食者を飼育していない場合でも、大丈夫。別名”フルーツゴキブリ”といって、我々人間も食用することができるのだ。ちゃんとした処理をすれば、エビやカニのようで中々美味しいらしいので興味のある方は是非。ちなみに私は食べたことはない。今のところは。

注意したいことがいくつかある。まず、霧吹きなどは絶対にしないこと。この環境で加湿したら、まず間違いなくカビる。飲み水さえあれば彼らは大丈夫なので、極力乾燥を維持すること。エサを入れっぱなしで放置できるのは、乾燥系だけの特権なのだ。

それからエサの種類。以前、余っていたドッグフードを与えたことがあったのだが、彼らにはあまり評判が良くなかった。またそのエサの所為かは分からないが、エサを変えてから、落ちる個体が増えた気がするので、おすすめはしない。ちなみに一応言っておくと、ア○ムスのドッグフードだ。言うまでもないことだが、商品として悪いわけではなく、あくまでもマダガスカルオオゴキブリには向かないという意味なので、悪しからず。

もうひとつだけ。貴方は、虫の死臭というのを嗅いだことはあるだろうか?肉や魚が腐るように、虫たちの屍体もまた、腐敗する。その臭いたるや、臭いの質こそ多少違えど、紛れもなく”腐敗臭”であり、本能が拒絶するレベルの悪臭なのだ。それもマダゴキサイズになれば尚のこと、部屋中にまで臭いが広がるほどである。水換えのときに、落ちた個体がいないかは必ず確認したい。

プラケース越しに何気なく彼らを観察していると、彼らも私たちと同じ動物なんだなーと改めて思うことがある。人工餌を両前脚で掴んで食べる仕草や、重い個体がプラケースの壁面からずり落ちていく様など、なんとも微笑ましいものだ。ペットとしての愛らしさも備えつつ、極めて容易に飼育・繁殖ができて、非常食にもなるという夢のような生き物が、彼らマダガスカルオオゴキブリなのだ。

種小名不明の個体群。交雑種らしく、見た目や大きさに個体差がある。

世界一テキトーなミックスボイスの説明

この記事は前回に引き続き、俗にハードミックスボイス、地声寄りのミックスボイス、ベルティングボイスなどと呼ばれる、中〜高音域の発声について著すものである。

前回↓

ミックスボイスの迷宮

声の出し方というのは、極めて感覚的なことである。ならばとことんまで感覚的な説明を、ただひたすらに並べていこう、というのが今回の内容。この発声の理論的で合理的な説明は、ちゃんとしたプロの先生方の記事を参照していただきたい。

  • 声帯で大きな声を出すのではなく、声帯で出した小さな音を鼻腔共鳴で大きくする。
  • 鼻の奥に声を通す感覚。鼻の奥に空気の塊があるような感覚で、そこに向けて声を出す。
  • ただし基本、鼻から息は漏らさない。
  • なんなら、声を飲み込むぐらいの気持ちで。
  • 裏声を意識しすぎない。
  • 練習で、ブレイク(裏返り)を恐れない。何故、どうしたら裏返ってしまうかを研究すべし。
  • コツを掴むまでは音域の高すぎる曲は避ける。超高音域の発声は、また別の技術も必要。
  • 裏声への切り替えを意識し始めるのは、超高音域に差し掛かる辺り。
  • どの母音のときでも、喉の奥は常に「え」の形を意識する。これが一番大事かも。
  • 舌の根元を前に出して、舌自体を下に押し付ける(ダジャレではない)。
  • 喉の奥の方で母音を作り、できる限り口先の方で子音を作る。やや舌足らずな感じになる。
  • 広角を上げる。口の中の空間が横に広がる。
  • 要するに、喉の奥やら口の中の空間を目一杯拡げて、舌は息の通り道を邪魔しないように使って、鼻の奥で歌えばいい

テキトー極まりない説明ではあるが、理詰めで考えるよりも存外こちらのほうがわかりやすかったりするものだ。ある程度基本ができてきている方なら、ともすればこの中のどれかにピンとくるものがあるかもしれない。健闘を祈る。

最早、未熟な私自身のための覚え書きと成り果てたこの記事であるが、それだけに身近で現実的な内容になっていると思う。道半ば、迷える同志たちに活用していただきたい。

R3.8.27改訂

本当にあった怖い(?)話 ヤスデの亡霊

これは私が実際に体験した話なんですがね。季節は確か、晩春から初夏の頃でしたかねー。ある日の夜、足に妙な感覚があって、ふっと目を覚ました。なんて言うんですかね、すねの辺りをこう、何か小さな虫が這っているような、こそばゆーい感覚。

「うわぁ、なんだろうなー、ゴキブリだったらイヤだなー」

なんて考えながら、ゆーっくりと体を起こした。虫ってね、刺激しちゃあダメなんですよ。彼ら、下手に刺激するとパニック起こして、凄いスピードで走り回ったり、ものによっちゃあ噛まれたり刺されたりもする。私もまあ虫に慣れてる方とはいえ、身体中駆け回られたり、噛まれたりしたら、そりゃあいい気持ちしませんからね。だから、ゆーっくりと起きて、そーっと布団を捲って、寝間着の裾を恐る恐る捲ってみた。ところが、

「…あれ、変だな…」

…いないんですよ、何にも。ゴキブリどころか、ありんこ一匹いやしない。おかしいなー、確かに何か感触はあったんだけどなーって思って、探してみる。でも、見つからない。こうなるとこっちも段々熱が入ってきて、絶対見つけてやる、ってなるんですよ。折角気持ちよく寝てたところを、起こされたわけですからね。何より、そんな何がいるか分からないような状態じゃあ、安心して眠れやしない。せめて正体だけでも一目見てやろうってんで、立ち上がって、電気をつけて、掛布団を持ち上げた。すると、出てきた。敷布団の真ん中辺り、ちょうどさっきまで自分が座っていた辺りに、コロンと黒いものが。

「なーんだ、ヤスデか…」

胸をなでおろした。ヤスデっていうのはね、どこにでもいる小さな虫で、まあー立ち位置的にはダンゴムシみたいなもんですよ。大した害もない。そいつが丸まった状態で、出てきた。よく見ると、すでに事切れているようで動かない。あー、きっと私が動いたときに潰してしまったんだなー、悪いことしたなーって思って、部屋にあった植木鉢にでも埋めて、弔ってやることにした。ヤスデを指でつまむと、ポロッ。割れて真っ二つになった。

その瞬間、背筋が凍りついた。冷や汗が、ブワァーーーッて出た。

…そのヤスデの体、カラッカラに乾いていたんです。…これってどういうことかと言うと、生きている虫の体の中って、体液で満たされているんですよ。私たち人間で言うと、血液みたいなもんですね。だから、水っぽい。生々しい話ですけどね。もしもついさっきまで生きていたんなら、もっと水っぽいはずなんだ。なのに、カラッカラに乾いてる。つまりこのヤスデ…

…とっくの昔に、この世を去っていたんですよ…

弔ってほしかったんでしょうかねぇ。土に還ることもできない部屋の中で息絶えて、寂しくて、幽霊になって救いを求めたのかもしれませんねぇ。いやー、あるんですよね、こういうことって。

キンモクセイについて

正直な話、キンモクセイはあまり好きではない。

いや、キンモクセイ自体が嫌いというわけではない。病害虫に強く丈夫な木だし、強い芳香のある花は秋の風物詩とも言えよう。

私が言いたいのは、手入れの話だ。
キンモクセイは基本的に、円柱形に刈り込んで仕立てる”ローソク仕立て”にする。比較的簡単で誰でもできる仕立て方なのだが、だからといって適当にやっていると、後で痛い目を見ることになるのだ。キンモクセイに限らず成長の穏やかな樹木は、形が大きく崩れることはあまりなく、浅く刈り込むだけで大体形になってしまう。手間も枝ゴミも少なく済むからといって毎年そうしていると、じわじわと巨大化してそのうち手が付けられなくなってしまう、というのがお約束だ。これは生け垣などでもよくあるパターンで、本来の幅の3倍ほどに分厚くなった樹木の壁は、職人の心を折るに事足りる。
更にいうと、モクセイの仲間は枝葉がしなやかで硬く、剪定ゴミが非常に嵩張る。これが大量にあると、割と地味にうざったいのだ。

例え樹形が見た目良くまとまっていても、2年に1回くらいは深めに刈って大きさを維持しておくべきなのである。刈り込んだ後、樹冠に沿って生える立ち枝や、間延びしたような絡み枝などを落としてやるとなお良い。ローソク仕立ての樹木は、向こう側に太陽や空が透けて見えるくらいの枝数が美しいとされているので、目安にしよう。

雌雄異株という言葉がある。雌株と雄株で分かれるタイプの樹木のことで、キンモクセイもこれに当たるのだが、日本には雄株しか存在しないらしい。もしも実が成っているのを目撃したのなら、それはキンモクセイではなくウスギモクセイという別種なのだそうだ。
彼らが毎年馥郁たる花を咲かせるのは、何も我々人間を楽しませるためではなく、一重に繁殖のためである。いもしない異性を求めて咲き誇る彼らを思うと、甘い香りも心持ち切なく感じるものだ。

キンモクセイの原種とされるギンモクセイ。
葉は外側に丸まらず、鋸歯が目立つ。

擬態の達人、トビモンオオエダシャク

とあるマンションの中庭で、モミジの手入れをしていた。素性の良いモミジは、ハサミを使わず素手で摘み取るように剪定することができる。ポキポキと小気味よく、これが中々クセになる感触なのだ。

ポキ、ポキ、ポキ。

続いて細かい枯れ枝も。

ポキ、ポキ、ぐにゃ。

「うえっ!?」

思わず声が出た。見ればその枯れ枝が、グネグネと動いている。そのときの驚愕たるや、苦手な人なら卒倒ものだ。

トビモンオオエダシャク。いわゆる尺取り虫の中でも、飛び抜けて巨大なガの幼虫だ。色や質感など、枯れ枝そのもので感心するほど。あまりの枯れ枝ぶりに、剪定ばさみで両断されてしまうことも。一緒に仕事していた先輩職人の手により、哀れにも真っ二つになった彼らを見ると、枯れ枝はなるべく手で折り取ろうと思うのだった。

そんな彼らだが、サイズの割に食欲は慎ましく、また群れたりもしないので、目立った害は意外と無い。猫耳のような二本の突起の生えた顔も可愛いし、地面に落ちてもなお背筋をピンと伸ばして枝になりきる様子など、何ともいじらしいものだ。

イモムシ愛好家への第一歩として、お勧めしたい。

二本の突起が可愛い。
「いや、そんな生え方の枝は無えよ」とツッコみたくなる。

庭師の宿敵、チャドクガ

ツバキやサザンカ、チャノキを見ると、ついつい注意深く観察してしまうのは、植木屋の性と言えよう。それらの樹木の害虫であるチャドクガは、私達にとって最も厄介な部類の害虫だ。

幼虫である毛虫は、白、黒、オレンジの派手目な彩色。全身を覆う毛には、一本一本に毒がある。成虫は黄色っぽい明褐色で目立つガなのだが、なんとこのチャドクガ、蛹のマユにも毒があり、さらには成虫の状態でも毒の毛を持っている。そして産卵の際に、卵の周りをその毛で覆ってしまうのだ。卵、幼虫、蛹、成虫と一生を通して毒毛虫なのである。

植木屋でなくとも、名前だけなら聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれない。恐らくは最も被害件数の多い毒毛虫なのではなかろうか。直接の接触はもちろん、枝葉に絡みついた抜け殻や風で飛んだ抜け毛に触れただけでも、激しい痒みを引き起こす。更には、皮膚に毒刺毛が残っている状態で掻きむしると、痒みは全身にまで広がってゆく。さながら未知の難病か呪いのようだ。

刺されたときの対処としては、なるべく掻きむしらず、患部を流水で流すかガムテープなどで残った毛を取り除いた後、塗り薬を塗る。市販の薬では、ムヒアルファEXが一番。虫刺されの薬は数あれど、毛虫に効くと明言しているものは、そう多くないのだ。余談だが、軟膏薬は塗布して約20分くらいから、急激に皮膚に浸透していくらしい。覚えておきましょう。

木に付いている毛虫の処理は、市販のスプレータイプの殺虫剤が手っ取り早くよく効く。仲間内では、ハチ用の高圧のスプレー剤などを兼用してしまっているが、これでもよい。少々値は張るが…

ホームセンターなどで売っている希釈用の薬剤は、発生前に撒けば予防にもなる。スミチオン、マラソン、トレボンなどの乳剤や粒剤だ。同じコーナーにある展着剤も混ぜるとより効く。

レインコートを着て作業するのもおすすめだが、時期的には暑いので汗だくになることを覚悟しよう。

私が以前勤めていた会社の昔気質な会長は、新聞紙を丸めたものにライターで火をつけて、毛虫のいる枝ごと炙ったりしていた。これなら厄介な抜け毛も残さず焼けるのだが、木を傷めるのでやり過ぎは禁物だ。

唯一の救いは、こいつらが偏食であることか。気を付けるべきは、ツバキ、サザンカ、チャノキ、シャラ(ナツツバキ)、ヒメシャラぐらいのもの。ちなみに、横文字でカメリアと名のつくものもツバキの仲間なので要注意。これらの樹木は、風通し良く剪定するなど管理を怠らないようにしたい。

これは蛇足だが、何故かこいつらは、葉が黄ばんでいるような元気の無い木には付かない。いるのは決まって、旺盛で活き活きとした樹木の枝葉の裏である。生まれくる我が子のために、青々とした美味しそうな木を選んで卵を産み、フカフカの布団で優しく包むのだ。そんな母の愛を思えば、少しは親近感が湧かなくもなくもない。

チャドクガ幼齢幼虫。ある程度大きくなるまでは、群れでまとまって過ごす。