庭師の宿敵、チャドクガ

ツバキやサザンカ、チャノキを見ると、ついつい注意深く観察してしまうのは、植木屋の性と言えよう。それらの樹木の害虫であるチャドクガは、私達にとって最も厄介な部類の害虫だ。

幼虫である毛虫は、白、黒、オレンジの派手目な彩色。全身を覆う毛には、一本一本に毒がある。成虫は黄色っぽい明褐色で目立つガなのだが、なんとこのチャドクガ、蛹のマユにも毒があり、さらには成虫の状態でも毒の毛を持っている。そして産卵の際に、卵の周りをその毛で覆ってしまうのだ。卵、幼虫、蛹、成虫と一生を通して毒毛虫なのである。

植木屋でなくとも、名前だけなら聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれない。恐らくは最も被害件数の多い毒毛虫なのではなかろうか。直接の接触はもちろん、枝葉に絡みついた抜け殻や風で飛んだ抜け毛に触れただけでも、激しい痒みを引き起こす。更には、皮膚に毒刺毛が残っている状態で掻きむしると、痒みは全身にまで広がってゆく。さながら未知の難病か呪いのようだ。

刺されたときの対処としては、なるべく掻きむしらず、患部を流水で流すかガムテープなどで残った毛を取り除いた後、塗り薬を塗る。市販の薬では、ムヒアルファEXが一番。虫刺されの薬は数あれど、毛虫に効くと明言しているものは、そう多くないのだ。余談だが、軟膏薬は塗布して約20分くらいから、急激に皮膚に浸透していくらしい。覚えておきましょう。

木に付いている毛虫の処理は、市販のスプレータイプの殺虫剤が手っ取り早くよく効く。仲間内では、ハチ用の高圧のスプレー剤などを兼用してしまっているが、これでもよい。少々値は張るが…

ホームセンターなどで売っている希釈用の薬剤は、発生前に撒けば予防にもなる。スミチオン、マラソン、トレボンなどの乳剤や粒剤だ。同じコーナーにある展着剤も混ぜるとより効く。

レインコートを着て作業するのもおすすめだが、時期的には暑いので汗だくになることを覚悟しよう。

私が以前勤めていた会社の昔気質な会長は、新聞紙を丸めたものにライターで火をつけて、毛虫のいる枝ごと炙ったりしていた。これなら厄介な抜け毛も残さず焼けるのだが、木を傷めるのでやり過ぎは禁物だ。

唯一の救いは、こいつらが偏食であることか。気を付けるべきは、ツバキ、サザンカ、チャノキ、シャラ(ナツツバキ)、ヒメシャラぐらいのもの。ちなみに、横文字でカメリアと名のつくものもツバキの仲間なので要注意。これらの樹木は、風通し良く剪定するなど管理を怠らないようにしたい。

これは蛇足だが、何故かこいつらは、葉が黄ばんでいるような元気の無い木には付かない。いるのは決まって、旺盛で活き活きとした樹木の枝葉の裏である。生まれくる我が子のために、青々とした美味しそうな木を選んで卵を産み、フカフカの布団で優しく包むのだ。そんな母の愛を思えば、少しは親近感が湧かなくもなくもない。

チャドクガ幼齢幼虫。ある程度大きくなるまでは、群れでまとまって過ごす。

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