ピナス・ピネア 盆栽(風)仕立て1

ピナス・ピネア、和名はイタリアカサマツという。ホームセンターのガーデンコーナーで、季節の草花と並べて置かれる可愛らしい幼木を見かけるが、彼らは歴とした樹木である。

数ある樹木の中でも、マツ類が特に好きな私は、他には無い色合いや雰囲気のこのマツの仲間を一も二もなく購入した。…のだが、調べるとどうやら、青みがかった爽やかな姿は若い間だけのようで、次第に日本の松に似た姿になっていくのだという。少々がっかりはしたが、日本の松に似ているということは、それに準じた仕立て方ができるということだ。そんなわけで、ピナス・ピネアの盆栽風仕立てに挑戦しようと思った次第である。あくまでも盆栽”風”なのは、私の作るそれが盆栽と呼んでよいものなのか分かりかねるからだ。

私の考える盆栽とは、「仕立てた植物体の大きさに対しての土の量を最低限まで少なくした鉢植え」である。鉢は、より小さく、より浅く、それゆえに水の管理が非常にシビアなのが盆栽の常だ。そこでズボラな私は、どんな植物の場合でも、余裕のある少し大きめの鉢を使って土量を多くとるようにしている。そんなインチキ品なもんで、胸を張って”盆栽”だなんて呼べるものではない、というのが実のところである。

まあ言い訳はともかく、洋マツを盆栽もどきに仕立てようという話だが、ネットで検索すると既に挑戦している方もいらっしゃる様子ではあるが、まだまだ情報は少ないようだ。これからどういう樹相になってゆくのか想像もつかないので、楽しみだ。

施工前。幼木購入から2年弱、初の剪定。
不要枝を根本から剪定。
枯葉を落として各枝の先端の芽を摘む。一応長い本葉も抜いてみる。今回は完了。
  • 松脂は柑橘っぽい香り。
  • 柔そうな見た目に反して、枯葉は手に刺さって痛い。
  • 若い間だけかもしれないが、クロマツや赤松などと比べて、脇芽がかなり出やすい様子。

キンモクセイについて

正直な話、キンモクセイはあまり好きではない。

いや、キンモクセイ自体が嫌いというわけではない。病害虫に強く丈夫な木だし、強い芳香のある花は秋の風物詩とも言えよう。

私が言いたいのは、手入れの話だ。
キンモクセイは基本的に、円柱形に刈り込んで仕立てる”ローソク仕立て”にする。比較的簡単で誰でもできる仕立て方なのだが、だからといって適当にやっていると、後で痛い目を見ることになるのだ。キンモクセイに限らず成長の穏やかな樹木は、形が大きく崩れることはあまりなく、浅く刈り込むだけで大体形になってしまう。手間も枝ゴミも少なく済むからといって毎年そうしていると、じわじわと巨大化してそのうち手が付けられなくなってしまう、というのがお約束だ。これは生け垣などでもよくあるパターンで、本来の幅の3倍ほどに分厚くなった樹木の壁は、職人の心を折るに事足りる。
更にいうと、モクセイの仲間は枝葉がしなやかで硬く、剪定ゴミが非常に嵩張る。これが大量にあると、割と地味にうざったいのだ。

例え樹形が見た目良くまとまっていても、2年に1回くらいは深めに刈って大きさを維持しておくべきなのである。刈り込んだ後、樹冠に沿って生える立ち枝や、間延びしたような絡み枝などを落としてやるとなお良い。ローソク仕立ての樹木は、向こう側に太陽や空が透けて見えるくらいの枝数が美しいとされているので、目安にしよう。

雌雄異株という言葉がある。雌株と雄株で分かれるタイプの樹木のことで、キンモクセイもこれに当たるのだが、日本には雄株しか存在しないらしい。もしも実が成っているのを目撃したのなら、それはキンモクセイではなくウスギモクセイという別種なのだそうだ。
彼らが毎年馥郁たる花を咲かせるのは、何も我々人間を楽しませるためではなく、一重に繁殖のためである。いもしない異性を求めて咲き誇る彼らを思うと、甘い香りも心持ち切なく感じるものだ。

キンモクセイの原種とされるギンモクセイ。
葉は外側に丸まらず、鋸歯が目立つ。

擬態の達人、トビモンオオエダシャク

とあるマンションの中庭で、モミジの手入れをしていた。素性の良いモミジは、ハサミを使わず素手で摘み取るように剪定することができる。ポキポキと小気味よく、これが中々クセになる感触なのだ。

ポキ、ポキ、ポキ。

続いて細かい枯れ枝も。

ポキ、ポキ、ぐにゃ。

「うえっ!?」

思わず声が出た。見ればその枯れ枝が、グネグネと動いている。そのときの驚愕たるや、苦手な人なら卒倒ものだ。

トビモンオオエダシャク。いわゆる尺取り虫の中でも、飛び抜けて巨大なガの幼虫だ。色や質感など、枯れ枝そのもので感心するほど。あまりの枯れ枝ぶりに、剪定ばさみで両断されてしまうことも。一緒に仕事していた先輩職人の手により、哀れにも真っ二つになった彼らを見ると、枯れ枝はなるべく手で折り取ろうと思うのだった。

そんな彼らだが、サイズの割に食欲は慎ましく、また群れたりもしないので、目立った害は意外と無い。猫耳のような二本の突起の生えた顔も可愛いし、地面に落ちてもなお背筋をピンと伸ばして枝になりきる様子など、何ともいじらしいものだ。

イモムシ愛好家への第一歩として、お勧めしたい。

二本の突起が可愛い。
「いや、そんな生え方の枝は無えよ」とツッコみたくなる。

庭師の宿敵、チャドクガ

ツバキやサザンカ、チャノキを見ると、ついつい注意深く観察してしまうのは、植木屋の性と言えよう。それらの樹木の害虫であるチャドクガは、私達にとって最も厄介な部類の害虫だ。

幼虫である毛虫は、白、黒、オレンジの派手目な彩色。全身を覆う毛には、一本一本に毒がある。成虫は黄色っぽい明褐色で目立つガなのだが、なんとこのチャドクガ、蛹のマユにも毒があり、さらには成虫の状態でも毒の毛を持っている。そして産卵の際に、卵の周りをその毛で覆ってしまうのだ。卵、幼虫、蛹、成虫と一生を通して毒毛虫なのである。

植木屋でなくとも、名前だけなら聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれない。恐らくは最も被害件数の多い毒毛虫なのではなかろうか。直接の接触はもちろん、枝葉に絡みついた抜け殻や風で飛んだ抜け毛に触れただけでも、激しい痒みを引き起こす。更には、皮膚に毒刺毛が残っている状態で掻きむしると、痒みは全身にまで広がってゆく。さながら未知の難病か呪いのようだ。

刺されたときの対処としては、なるべく掻きむしらず、患部を流水で流すかガムテープなどで残った毛を取り除いた後、塗り薬を塗る。市販の薬では、ムヒアルファEXが一番。虫刺されの薬は数あれど、毛虫に効くと明言しているものは、そう多くないのだ。余談だが、軟膏薬は塗布して約20分くらいから、急激に皮膚に浸透していくらしい。覚えておきましょう。

木に付いている毛虫の処理は、市販のスプレータイプの殺虫剤が手っ取り早くよく効く。仲間内では、ハチ用の高圧のスプレー剤などを兼用してしまっているが、これでもよい。少々値は張るが…

ホームセンターなどで売っている希釈用の薬剤は、発生前に撒けば予防にもなる。スミチオン、マラソン、トレボンなどの乳剤や粒剤だ。同じコーナーにある展着剤も混ぜるとより効く。

レインコートを着て作業するのもおすすめだが、時期的には暑いので汗だくになることを覚悟しよう。

私が以前勤めていた会社の昔気質な会長は、新聞紙を丸めたものにライターで火をつけて、毛虫のいる枝ごと炙ったりしていた。これなら厄介な抜け毛も残さず焼けるのだが、木を傷めるのでやり過ぎは禁物だ。

唯一の救いは、こいつらが偏食であることか。気を付けるべきは、ツバキ、サザンカ、チャノキ、シャラ(ナツツバキ)、ヒメシャラぐらいのもの。ちなみに、横文字でカメリアと名のつくものもツバキの仲間なので要注意。これらの樹木は、風通し良く剪定するなど管理を怠らないようにしたい。

これは蛇足だが、何故かこいつらは、葉が黄ばんでいるような元気の無い木には付かない。いるのは決まって、旺盛で活き活きとした樹木の枝葉の裏である。生まれくる我が子のために、青々とした美味しそうな木を選んで卵を産み、フカフカの布団で優しく包むのだ。そんな母の愛を思えば、少しは親近感が湧かなくもなくもない。

チャドクガ幼齢幼虫。ある程度大きくなるまでは、群れでまとまって過ごす。

植木の剪定、ザックリと

庭木の剪定というと、どこをどうしたらいいのか分からないという方も多いことと思う。
しかし相手は自然、一からキチンと勉強するには、覚えることが余りにも多すぎる。
そこで今回は、曲がりなりにもプロの植木屋として、庭木の剪定のポイントを大雑把に、ザックリとまとめてみたい。

小さく、密に、形良くが基本

根本的に庭園というのは、山や川などの自然風景を、コンパクトにまとめたものである場合が多い。
なので、大きさはある程度で抑えておかなければならない。
しかし単に小さく切っただけでは、枝が少なく何とも貧相な樹形になってしまう。
丁度いい大きさのところで、毎年刈り込みや芽摘みを継続して行うことで、小さいままでも密で充実した枝となる。
そしてそれが、格好いい樹形の条件であると言えよう。

最低でも年一回

樹木は一年で結構伸びる。
折角綺麗に手入れをしても、丸二年も空ければ原型も留めない程に伸び切ってしまうことだろう。
アカマツなど、一度形が崩れてしまうと取り返しのつかないような樹種もある。
枝ゴミも一年分と二年分とでは、その差は単純に倍ではない。
その上、同じ場所で切るにしても、二年たった太い枝では切り口も大きく、樹木へのダメージもそれなりに強烈だ。
多少手間が増えても、年一回以上は手を付けるべきなのだ。

落葉樹は冬、常緑樹は春先。真夏は絶対にNG!

落葉樹にとって、冬場は休眠期間である。落葉樹を剪定するならば、この時期をおいて他には無い。
ただしいくら葉っぱが無いと言っても、芽の位置には気をつける必要がある。
来春からの樹形に直接関わってくるからだ。

常緑樹はというと、新芽が伸び始める頃、3月半ばから4月にかけてが適期。
冬の寒さを越えた後で、尚かつ夏の暑さに備えさせることができる、お誂え向きの期間である。

とはいえ実際、少し形を整えるくらいならば、基本的にはいつでも大丈夫だ。
しかし大きく切り詰める場合や、枝葉を沢山落とす場合は、上記の時期を逃さないようにしたい。
理屈は省かせて頂くが、基本的に樹木は枝を切られると、それを補おうと新芽を伸ばす性質がある。
しかし新芽というのは、柔らかくて非常に脆いため、しっかりと固まる前に夏の日差しや冬の霜に当たってしまうと、簡単に枯れてしまうのだ。
生育期以外の時期に新芽を伸ばすことは、植物にとって多大なエネルギーを消費する行為だ。
それさえも枯れてしまえば、ダメージは計り知れない。

逆に、どんな樹木であろうと、剪定の時期として絶対に避けたほうがいいのが、夏前および真夏だ。
樹木が弱ってしまう大きな原因となるのが、幹や枝の日焼けである。
葉には、幹を日差しから守る役割もあるため、この時期にはなるべく減らさないほうがいいのだ。

まとめ

庭木の剪定の大原則のようなものをを、大雑把に、本当にザックリとだが、まとめさせていただいた。
植木は生き物である故、その手入れに必要以上に臆病になってしまう方は意外にも多い。
しかし例え多少切り間違えたところで、彼らは痛くも痒くもないと言わんばかりに枝葉を伸ばし続けることだろう。
私も植木屋一年生の頃は、それはそれは酷い剪定をしたものだが、それが直接の原因となって枯らしたことは、思いつく限りでは一件もない。


技術面なども含め、愛する樹木たちとともに成長してゆきたいものだ。